弁護士法人葛飾総合法律事務所

遺産分割前に故人の預金を引き出す方法|葬儀費用・生活費に使える払戻し制度を解説

「父が亡くなったが、銀行口座が凍結されてしまい、葬儀費用が支払えない。」
「母の入院費・施設費の精算が残っている。とりあえず母の預金から支払ってもよいのか分からない。」
「兄が父の預金通帳を持っており、勝手に引き出されないか不安。」
 
葛飾総合法律事務所では、葛飾区金町・亀有・新小岩エリアを中心に、このようなご相談を多くお受けしています。
相続が発生すると、原則として、故人の預貯金は遺産分割が終わるまで自由に引き出すことができません。
しかし、葬儀費用や生活費、医療費・施設費の支払いなど、遺産分割を待てない資金需要は少なくありません。

そこで設けられたのが、本コラムで解説する遺産分割前の相続預金の払戻し制度(民法909条の2、家事事件手続法200条3項)です。
本記事では、制度の仕組み、引き出せる金額、必要書類、注意点を、葛飾区の相続弁護士が実務目線で解説します。

目次

1 なぜ相続発生で銀行口座は凍結されるのか

⑴ 凍結の理由

金融機関は、預金者の死亡を知ると、その時点で口座を凍結(取引を停止)します。

これは、相続人間のトラブル防止と、二重払い防止のための実務的取扱いです。

法律で「凍結せよ」と明記されているわけではありませんが、各金融機関の規定に基づき、ほぼ例外なく行われています。

⑵ なぜ単独で引き出せないのか――最高裁大法廷決定

かつての判例は、預貯金債権を法定相続分に応じて当然分割されるものと扱っていました。

しかし、最高裁判所は、最大決平成28年12月19日(民集70巻8号2121頁)において、共同相続された普通預金債権・通常貯金債権・定期貯金債権はいずれも遺産分割の対象に含まれ、相続開始と同時に当然に分割されるものではないと判断しました。

この判例の結果、共同相続人の一人が遺産分割前に単独で預金を引き出すことは原則としてできなくなりました。

⑶ 制度創設の背景

しかし、この扱いを徹底すると、葬儀費用や生活費の支払いに困る相続人が生じます。

そこで、平成30年の民法(相続法)改正により、民法909条の2および家事事件手続法200条3項が新設・改正され、遺産分割前でも一定の払戻しを認める制度が整備されました(令和元年7月1日施行)。

2 遺産分割前の相続預金払戻し制度――2つの方法

払戻しの方法には、家庭裁判所を通さない方法(民法909条の2)と、家庭裁判所の判断による方法(家事事件手続法200条3項)の2種類があります。

⑴ 比較表

項目 ①家庭裁判所を通さない方法(民法909条の2) ②家庭裁判所の判断による方法(家事事件手続法200条3項)
根拠 民法909条の2 家事事件手続法200条3項
手続先 金融機関の窓口 家庭裁判所(その後、金融機関で払戻し)
同意 他の相続人の同意不要 他の相続人の意見聴取あり
金額の上限 同一金融機関につき150万円(計算上もこれ以下) 上限なし(必要性の範囲内)
要件 計算式に基づく金額であること 資金需要の必要性+他の共同相続人の利益を害さないこと
手続期間の目安 数週間〜1か月程度 1〜数か月程度
遺産分割調停・審判の申立て 不要 必要(係属していること)

⑵ どちらを選ぶか

少額(おおむね150万円以内)で済む葬儀費用・当面の生活費であれば①、まとまった医療費・施設費・相続債務の弁済等で②の方が現実的なケースが多くあります。

3 方法①:金融機関の窓口で払戻しを受ける(民法909条の2)

⑴ 計算式

単独で払戻しを受けられる金額
= 相続開始時の預金額 × 1/3 × 払戻しを受ける相続人の法定相続分
(ただし同一金融機関につき150万円が上限)

「150万円」という上限は、民法909条の2が「法務省令で定める額を限度とする」と規定し、これを受けて法務省令(民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)で150万円と定められたものです。

⑵ 計算例

例1:相続人が長男・長女の2名(法定相続分各1/2)、父の普通預金600万円
600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円
→ 長男は単独で100万円の払戻し請求が可能

例2:相続人が配偶者・子1名(配偶者1/2、子1/2)、預金1,200万円
配偶者:1,200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円 → 上限により150万円
子  :1,200万円 × 1/3 × 1/2 = 200万円 → 上限により150万円

計算上200万円となっても、同一金融機関では150万円が上限です。なお、上限は「金融機関ごと」に判定されるため、A銀行とB銀行に預金がある場合は、それぞれ別個に判定されます(同じ銀行の支店違いは合算)。

⑶ 払戻金の使途は自由か

民法909条の2は使途を限定していません。

葬儀費用・生活費・医療費・相続債務の弁済等、必要に応じて利用できます。

ただし後述のとおり、後の遺産分割で調整される点と、相続放棄との関係には十分な注意が必要です。

4 方法②:家庭裁判所の判断による仮払い(家事事件手続法200条3項)

⑴ どのような制度か

遺産分割の調停・審判が家庭裁判所に係属していることを前提に、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により、預貯金債権を行使する必要があると認められる場合、家庭裁判所は、特定の預貯金債権の全部または一部を申立人に仮に取得させることができます(家事事件手続法200条3項本文)。

ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでないとされています(同項ただし書)。

⑵ 認められやすいケース・認められにくいケース

認められやすい 認められにくい
高額な葬儀費用、医療費、施設費の精算 金額・必要性の説明が不十分
故人に扶養されていた配偶者の生活費 他の相続人の取り分が大きく目減りする
相続債務(住宅ローン、カードローン等)の弁済 既に多額の払戻しを受けている
公租公課・固定資産税等の支払い 申立人の私的支出にすぎないと評価される

⑶ 申立てに必要な資料の例

  • 葬儀費用・医療費・施設費の見積書、請求書
  • 申立人の家計状況、収入・支出資料
  • 相続財産目録、預金通帳の写し
  • 相続関係を示す戸籍一式(または法定相続情報一覧図の写し)

5 払戻金は「もらい得」にならない――遺産分割での清算

民法909条の2第2文は、払戻しを受けた額については「当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」と規定しています。

つまり、払戻しを受けた相続人は、その金額を遺産分割の前渡しとして受け取ったことになり、最終的な分割で清算されます。

⑴ 清算のイメージ

例:遺産総額3000万円、相続人2名(各1/2)、長男が遺産分割前に150万円の払戻しを受けた場合
最終的な取り分の調整:
長男:3000万円 × 1/2 = 1500万円 のうち、すでに150万円受領済 → 残り1350万円
長女:3000万円 × 1/2 = 1500万円

⑵ 残しておきたい証拠

後日「使い込みでは?」と疑われないために、以下の証拠を残しておくことをお勧めします。

  • 葬儀費用、医療費、施設費の領収書・請求書(金額・宛名・日付の揃ったもの)
  • 香典帳・香典返し記録
  • 支払先・支払日・金額・目的を記録した出納メモ
  • 他の相続人へ用途を説明したメール・LINEのスクリーンショット
  • 通帳の入出金記録

6 注意点――相続放棄・遺言・キャッシュカード問題

⑴ 相続放棄を検討している方へ(最重要)

被相続人に借金・連帯保証債務がある場合など、相続放棄(民法915条1項)を検討している方は、預金の払戻し・使用に極めて慎重である必要があります。

民法921条1号は「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は単純承認をしたものとみなす(法定単純承認)と規定しています。払戻しを受けて生活費に充てた、私的な支払いに使ったといった事情があると、相続財産の処分と評価され、相続放棄ができなくなる、または受理後に債権者から放棄の効力を争われるリスクがあります。

葬儀費用への充当については、社会通念上相当な金額にとどまる限りで法定単純承認に当たらないと判断した裁判例(大阪高決平成14年7月3日等)もありますが、判断は事案により分かれるため、払戻しの前に弁護士へご相談ください。

🔗 関連:相続放棄の注意点と弁護士費用

⑵ 遺言書がある場合

遺言公正証書・自筆証書遺言で、預貯金が特定の相続人や受遺者に承継される旨が定められている場合、当該預貯金は遺産分割の対象とならず、本制度の利用ができないことがあります。

遺言執行者が指定されているときは、遺言執行者の権限(民法1012条等)との関係も問題となります。遺言書が見つかった場合は、まず内容を確認のうえ、専門家にご相談ください。

⑶ キャッシュカードでの引き出しは避ける

金融機関が死亡を把握する前に、相続人の一人がキャッシュカードで現金を引き出す事例は実務上よく見られます。

しかし、これはリスクの高い行為です。

  • 他の相続人から「使い込み」として損害賠償請求・不当利得返還請求の対象となる
  • 引き出し記録が10年以上残るため、後日の調停・訴訟で必ず争点化する
  • 上記のとおり、相続放棄ができなくなる
  • 当事務所がお受けする被相続人死亡後の「使い込み」相談の多くは、このパターンです

🔗 関連:預貯金の使い込みを取り戻す

7 こんな方は弁護士へご相談を

以下のいずれかに当てはまる方は、払戻し手続の前にご相談いただくことをおすすめします。

  • ☐ 他の相続人とすでにもめている、関係が良くない
  • ☐ 誰が葬儀費用を負担するかで意見が割れている
  • ☐ 相続人の一人が預金通帳・印鑑・キャッシュカードを管理している
  • ☐ 既に多額の預金が引き出されている形跡がある
  • ☐ 相続放棄を検討している、または借金の存在が疑われる
  • ☐ 遺言書が見つかった
  • ☐ 150万円を超える資金が必要
  • ☐ 金融機関や口座が複数あり、相続財産の全体像が把握できていない
  • ☐ 故人が事業を営んでおり、屋号口座・法人口座も含めて整理が必要
  • ☐ 共同相続人の一人と連絡が取れない、行方不明

8 よくある質問(FAQ)

Q1. 遺産分割協議が終わる前でも、故人の預金を引き出せますか?

民法909条の2に基づき、相続開始時の預金額 × 1/3 × 払戻しを受ける相続人の法定相続分の範囲(同一金融機関につき150万円が上限)で、他の相続人の同意がなくても単独で引き出すことができます。それを超える場合は、家事事件手続法200条3項の仮分割の仮処分の利用を検討します。

Q2. 葬儀費用のためなら、自由に故人の預金を使ってよいですか?

「自由に」ではありません。本制度に沿って払戻しを受けた場合でも、後日の遺産分割で清算されます。また、相続放棄を検討する方は、葬儀費用への充当であっても法定単純承認との関係で慎重な判断が必要です。

Q3. 150万円を超える金額が必要な場合はどうすればよいですか?

家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立てたうえで、家事事件手続法200条3項に基づく預貯金の仮分割の仮処分を申し立てます。資金需要の必要性が認められ、かつ他の共同相続人の利益を害さないことが要件となります。

Q4. 相続放棄をする予定でも、この制度を使えますか?

預金の払戻し・使用が相続財産の処分(民法921条1号)と評価されると、法定単純承認となり、相続放棄ができなくなる可能性があります。葬儀費用への充当であっても安全とは言い切れないため、必ず払戻し前に弁護士へご相談ください。

Q5. 金融機関ごとに必要書類は違いますか?

異なります。同じ「払戻し」でも、銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行・JAバンク等で書類様式や運用が違います。必ず取引金融機関の相続手続窓口に確認してください。

Q6. 故人の預金が複数の銀行にある場合、150万円の上限はどう計算しますか?

「同一金融機関につき」150万円が上限です。たとえばA銀行・B銀行・ゆうちょ銀行に預金がある場合、それぞれの金融機関について別個に150万円の上限が適用されます。

Q7. 葬儀費用は喪主が立て替えるべきですか、それとも預金から払うべきですか?

法律上は喪主が当然に負担するわけではなく、相続人間の協議によります。後の精算を容易にするため、いったん喪主が立て替え、領収書を保管したうえで、本制度を用いて立替分を回収する方法が実務上分かりやすい運用です。もっとも、葬儀費用は葬儀会社と喪主との間の葬儀契約を前提とし、喪主が負担するべきと判断した裁判例もあるため、葬儀費用を支出してよいかどうか迷った場合も一度専門家にご相談をすることをお勧めします。

Q8. 払戻し制度を利用してから、どのくらいで現金を受け取れますか?

金融機関により異なりますが、書類が揃ってから2〜4週間程度が目安です。書類不備があると更に時間がかかります。

 

9 葛飾区で相続にお困りの方へ――葛飾総合法律事務所のサポート

葛飾総合法律事務所では、葛飾区金町を中心に、葛飾区・足立区・江戸川区・墨田区の相続トラブルを多数お取り扱いしています。

こんなご相談に対応しています

  • 預貯金の払戻し・凍結解除
  • 遺産分割協議・調停・審判
  • 相続放棄(3か月の熟慮期間を過ぎた場合のご相談も可)
  • 預貯金の使い込み・不当利得返還請求
  • 遺留分侵害額請求
  • 遺言書の作成・遺言執行

まずは、お気軽にお電話ください。

 

お電話でのお問い合わせ

平日9時~18時で弁護士が電話対応
※初回ご来所相談30分無料
☎︎ 03-5875-6124

この記事の著者

弁護士法人葛飾総合法律事務所

代表弁護士角 学 (東京弁護士会所属)

千葉県出身です。葛飾区金町のお隣の松戸市に住んでいました。
中学、高校は、都内の巣鴨学園で遠泳・古式泳法・登山・剣道等様々な分野に取り組みました。
司法試験合格後、しっかりとした弁護士の基礎を身につけたいと思い、港区の大手法律経済事務所に就職し、元裁判官や元検察官、現役の弁護士職務経験裁判官、検察官をはじめとする先輩弁護士の方々に学びました。
その後、弁護士として、トラブルに困っている方々のお力になりたいと考え、地元にほど近い葛飾区金町で独立をいたしました。

葛飾の相続問題に精通した弁護士が対応。

相続問題にお困りの方は
弁護士法人葛飾総合法律事務所にご相談ください

相続に関する著作活動やセミナー活動にも尽力。経験豊富な弁護士が解決までサポートします!

初回相談30分無料03-5875-6124

営業時間 平日9:00~18:00

お問い合わせ
初回相談30分無料

03-5875-6124

営業時間 平日9:00~18:00

お問い合わせ