弁護士法人葛飾総合法律事務所

デジタル遺産の相続で困らないために

相続というと、預貯金、不動産、株式などを思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、近年は、財産や重要な情報が、スマートフォン、パソコン、クラウドサービス、インターネット上のアカウントなどに保存されていることが珍しくありません。
たとえば、次のようなものです。

  • ネット銀行、ネット証券の口座
  • 暗号資産、NFT、FX口座
  • 電子マネー、ポイント、マイル
  • スマートフォン内の写真・動画
  • Google、Apple、LINE、Instagram、X、Facebookなどのアカウント
  • サブスクリプション契約
  • ブログ、YouTube、アフィリエイト収益

これらは一般に「デジタル遺産」と呼ばれます。
デジタル遺産は、目に見えにくく、家族がその存在を把握しづらいという特徴があります。
そのため、相続の場面で、
「故人がどこのネット銀行を使っていたか分からない」
「スマホのロックが解除できない」
「暗号資産があるらしいが、取り出せない」
「サブスク料金だけが引き落とされ続けている」
といった問題が生じます。

本コラムでは、デジタル遺産の相続について、弁護士の視点から、デジタル遺産の調査方法や、相続人が注意すべきポイントなどについて解説します。

目次

1 デジタル遺産とは何か

デジタル遺産とは、故人がデジタル形式で保有・管理していた財産、データ、アカウント、契約上の権利義務などを広く指す言葉です。

法律上、「デジタル遺産」という名称の遺産があるわけではありません。

⑴ 金銭的価値のあるデジタル資産

遺産相続に当たって重要なのは、直接お金に関わるデジタル資産です。

代表例は次のとおりです。

  • ネット銀行口座
  • ネット証券口座
  • 暗号資産
  • FX口座
  • 電子マネー残高
  • フリマアプリ、ネットオークションの売上金
  • アフィリエイト報酬
  • YouTube、ブログ等の収益

これらは、原則として相続財産として扱われる可能性があります。

これらのうち、特にネット銀行やネット証券は、紙の通帳や郵便物がないことも多く、相続人が存在に気付かないまま放置されるリスクがあります。

⑵ 暗号資産・NFTなどの特殊な資産

取引所に預けている暗号資産であれば、取引所に相続手続を申し出ることで対応できる場合があります。

一方、故人が自分のウォレットで管理していた場合、秘密鍵やリカバリーフレーズが分からなければ、相続手続によって資産を移動できないこともあります。

⑶ 写真・動画・メール・SNSなどのデータ

スマートフォンやクラウドには、家族写真、動画、メール、LINE、SNSの投稿、メッセージなどが保存されています。

これらは必ずしも金銭的価値を持つとは限りませんが、遺族にとっては大切な思い出であり、同時に故人のプライバシーに関わる情報でもあります。

そのため、相続財産という観点だけでなく、

「誰が見るのか」

「どこまで見るのか」

「保存するのか、削除するのか」

を慎重に考える必要があります。

⑷ サブスクリプション・有料サービス

動画配信、音楽配信、クラウドストレージ、オンラインサロン、アプリ課金、サーバー代、ドメイン代なども見落とされがちです。

故人のクレジットカードや銀行口座から毎月引き落とされている場合、解約しない限り費用が発生し続けます。

相続人としては、クレジットカード明細、銀行口座の入出金履歴、メールの請求通知を確認し、継続課金の有無を早めに調査する必要があります。

2 デジタル遺産で問題になりやすい「3つの壁」

⑴ 壁1:スマホやパソコンが開けない

デジタル遺産の入口は、多くの場合、故人のスマートフォンやパソコンです。

しかし、スマートフォンには、パスコード、指紋認証、顔認証などが設定されていることが多く、相続人であっても、簡単に解除できるとは限りません。

むやみにパスコードを試すと、一定回数の失敗により端末がロックされたり、設定によってはデータが消去されたりするおそれがあります。

したがって、故人のスマートフォンが開けない場合は、まず次の対応を検討します。

  • パスコードを推測して何度も入力しない
  • 生前にメモやエンディングノートが残されていないか確認する
  • AppleやGoogleの公式手続を確認する
  • 必要に応じて専門業者に相談する

Appleでは、故人アカウント管理連絡先を追加する仕組みや、亡くなった家族のApple Accountへのアクセス・削除を申請する手続が案内されています。

Googleにも、一定期間アカウントを利用していない場合に、指定した第三者へデータを共有したり通知したりする「アカウント無効化管理ツール」があります。

⑵ 壁2:アカウントは相続できるとは限らない

デジタルサービスの多くは、「アカウントそのもの」を所有しているのではなく、サービス提供会社との利用契約に基づいて使っているに過ぎません。

そのため、利用規約上、アカウントの譲渡や相続が禁止されていることがあります。

この場合、預貯金のように、当然にアカウントを引き継ぐことができると考えるのは危険です。

相続人が、故人のID・パスワードを使って勝手にログインすると、利用規約違反となる可能性がありますし、状況によっては、不正アクセスに関する問題が生じる可能性も否定できません。

実務上は、各サービスの公式な相続・死亡時手続を確認し、必要書類を提出して対応するのが安全です。

⑶ 壁3:存在を把握できない

デジタル遺産の最大の問題は、「そもそも何があるのか分からない」という点です。

紙の通帳、証券会社からの郵便物、保険証券などがあれば、相続人は財産の存在に気付きやすいです。

しかし、ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、クラウドサービスなどは、スマホアプリやメール通知だけで完結していることがあります。

その結果、相続財産から漏れてしまう可能性があります。

3 相続人が行うべき調査

故人のデジタル遺産が分からない場合、相続人は次の調査することが考えられます。

⑴ スマートフォンのアプリを確認する

ネット銀行、証券会社、暗号資産取引所、電子マネー、フリマアプリ、サブスクサービスのアプリが入っていないか確認します。

ただし、ログイン操作をする前に、利用規約や公式手続を確認することが望ましいです。

⑵ メールを確認する

メールには、デジタル遺産の手がかりが多く残ります。

検索すべきキーワードの例は次のとおりです。

「銀行」「証券」「ログイン」「取引」「残高」「入金」「出金」「暗号資産」「ビットコイン」「請求」「月額」「サブスクリプション」「更新」「ドメイン」「サーバー」

⑶ クレジットカード明細・銀行明細を確認する

毎月同じ金額が引き落とされている場合、サブスクリプション契約の可能性があります。

また、暗号資産取引所、証券会社、フリマアプリ、広告会社などとの入出金が見つかることもあります。

⑷ 確定申告書・会計資料を確認する

故人が副業、投資、アフィリエイト、動画配信、ブログ運営などをしていた場合、確定申告書や会計資料にデジタル資産の痕跡が残っていることがあります。

⑸ 弁護士会照会や相続人としての開示請求を検討する

金融機関名やサービス名がある程度分かっている場合、相続人として残高証明書や取引履歴の開示を求めることがあります。

また、弁護士が受任している事件では、弁護士法23条の2に基づく照会(弁護士会照会)を利用できる場合があります。

4 デジタル資産に係る相続人が注意すべきポイント

⑴ 勝手にログインしない

故人のID・パスワードを使えばログインできる場合でも、サービスの利用規約に違反する可能性があります。

特に、SNS、メール、クラウドサービス、暗号資産取引所などは、本人以外の利用を制限していることが多いため、慎重な対応が必要です。

⑵ 相続人全員の合意を取る

故人のスマホやメールには、財産情報だけでなく、プライバシー性の高い情報も含まれています。

特定の相続人だけが中身を確認すると、後で

「勝手に財産を移したのではないか」

「都合の悪いデータを削除したのではないか」

という疑いが生じることがあります。

可能であれば、相続人全員の合意を取った上で、確認範囲や確認方法を決めておくべきです。

⑶ 相続放棄を検討している場合は操作に注意する

故人に借金がある可能性があり、相続放棄を検討している場合、デジタル資産の処分や換金には特に注意が必要です。

財産を処分したと評価される行為をすると、相続放棄に影響する可能性があります。

たとえば、故人のアカウント内の売上金を引き出す、暗号資産を売却する、電子マネーを使うといった行為は、事案によって問題になり得ます。

相続放棄を考えている場合は、デジタル遺産を動かす前に弁護士へ相談することをお勧めします。

5 遺産分割等の弁護士費用

遺産分割や相続トラブルに関する弁護士費用につきましては、以下のページにて詳しくご案内しております。

https://kl-o.jp/inheritance/#souzokucost

 

6 おわりに

これまでご説明してきたとおり、デジタル遺産には、ネット銀行の預金、証券口座、暗号資産、電子マネー、ポイント、写真、動画、SNS、サブスクリプションなど、故人の財産や生活の記録が数多く含まれており、放置すると種々の問題が生じる可能性があります。

デジタル遺産を含む遺産分割協議、相続放棄、遺言書作成などでお悩みの方は、一度当事務所にご相談ください。

7 よくある質問

Q1 故人のスマホのロックを解除してもよいですか。

A.相続人であっても、慎重に対応すべきです。
故人の所有物であるスマートフォンについて、相続人が管理すること自体はあり得ます。
しかし、端末内には他人との通信内容やプライバシー情報が含まれています。
また、パスコードを何度も試すと、端末がロックされたり、データが消去されたりするおそれがあります。
まずは、AppleやGoogleの公式手続、エンディングノート、家族間の合意を確認すべきです。

Q2 故人のSNSにログインして訃報を投稿してもよいですか。

A.慎重に考えるべきです。

遺族の気持ちとしては自然ですが、SNSの多くは本人以外のログインを制限しています。

規約違反となる可能性があるため、公式の追悼アカウント手続や削除申請を利用する方が安全です。

Q3 ネット銀行の存在が分からない場合、どう探せばよいですか。

A.まずは、スマホアプリ、メール、銀行口座の入出金履歴、クレジットカード明細、確定申告書を確認します。

メールでは、「銀行」「ログイン」「残高」「入金」「出金」「振込」などのキーワードで検索すると手がかりが見つかることがあります。

金融機関名が分かれば、相続人として残高証明書の発行を求めることができる場合があります。

Q4 サブスクリプション料金が引き落とされ続けています。どうすればよいですか。

A.まず、クレジットカード会社や銀行の明細から、どのサービスに支払っているのかを特定します。

その上で、各サービスに死亡の事実を伝え、解約手続を進めます。

サービス名が分からない場合でも、カード会社に相談することで、請求元の情報が分かることがあります。

また、引き落とし口座の金融機関に連絡し、口座を凍結することも一般的によく行われます。その場合は、引き落としができなかったサービス会社から連絡が来るため、そこで解約の手続をご案内いただくことになります(規約により自然解約となる場合もあります。)。

 

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この記事の著者

弁護士法人葛飾総合法律事務所

代表弁護士角 学 (東京弁護士会所属)

千葉県出身です。葛飾区金町のお隣の松戸市に住んでいました。
中学、高校は、都内の巣鴨学園で遠泳・古式泳法・登山・剣道等様々な分野に取り組みました。
司法試験合格後、しっかりとした弁護士の基礎を身につけたいと思い、港区の大手法律経済事務所に就職し、元裁判官や元検察官、現役の弁護士職務経験裁判官、検察官をはじめとする先輩弁護士の方々に学びました。
その後、弁護士として、トラブルに困っている方々のお力になりたいと考え、地元にほど近い葛飾区金町で独立をいたしました。

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