結婚20年以上の夫婦へ。自宅の生前贈与は「遺産分割」の対象外にできる?(持ち戻し免除の推定)
遺産分割
夫から生前、
『自分が亡くなった後も生活に困らないように』
と、現在住んでいる自宅の贈与を受けました。
しかし、遺産分割では生前にもらった財産も計算に入れると聞き、不安です。
自宅は高額なので、これを含めると預貯金がほとんどもらえなくなるのでしょうか?
このようなご相談をよくいただきます。
特に高齢のご夫婦の場合、残された配偶者の生活保障は切実な問題です。
結論から申し上げますと、
結婚期間が20年以上の夫婦間で行われた「自宅の贈与」については、原則として遺産分割の計算に含めなくて良い(持ち戻し計算をしなくて良い)
というルールが、近年の法改正で整備されました。
このコラムでは、長年連れ添ったご夫婦を守るための「特別受益の持ち戻し免除」について、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
1 【結論】結婚20年以上なら、自宅の贈与は「別枠」にできる可能性大
本来、相続人の一人が生前に多額の贈与を受けている場合、それは「遺産の前渡し」とみなされ、遺産分割の際に計算上の調整が行われます。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
しかし、長年連れ添った配偶者への自宅贈与は、単なる前渡しではなく「長年の貢献への感謝」や「老後の生活保障」の意味合いが強いものです。
そこで、令和元年(2019年)7月1日に施行された改正民法により、以下の条件を満たす場合は、「生前贈与された自宅は、遺産分割の計算に含めなくてよい(持ち戻し免除)」という推定が働くことになりました。
これにより、残された配偶者は「自宅」を確保したうえで、その他の「預貯金」についても、法定相続分通りに受け取れる可能性が高まりました。
2 「特別受益」と「持ち戻し」とは?
本題に入る前に、基本的な用語を整理しておきましょう。
特別受益(とくべつじゅえき)
被相続人(亡くなった方)から、生前に受け取ったまとまった財産のことです。
※例:自宅の贈与、住宅購入資金の援助、開業資金など
特別受益の持ち戻し
「もらった人と、もらっていない人の公平」を図るための計算ルールです。
生前贈与された分を相続財産に加算(持ち戻し)して、遺産総額を計算し直します。
(これまでの問題点)
従来は、自宅の贈与を受けると、その評価額が遺産総額に加算されていました。その結果、自宅の価値が高い場合、配偶者が受け取れる「預貯金」の取り分が減ってしまい、「家はあるけど生活費(現金)がない」という事態になりかねませんでした。
3 改正民法903条4項:「持ち戻し免除の意思表示の推定」とは
本来、「持ち戻し」をさせないためには、亡くなった方が「この贈与は遺産分割の計算に入れなくていいよ」という意思表示(持ち戻し免除の意思表示)をしておく必要がありました。
しかし、夫婦間で書面(遺言書など)により明示的にこの意思表示をしているケースは稀でした。
そこで新設されたのが、民法903条第4項です。
※ただし本規定は“推定”規定であり、被相続人が持ち戻し免除を望んでいなかったことが明確な場合など、事情により覆る余地があります。
(民法903条第4項)
婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
簡単に言えば、「条件を満たせば、遺言書などがなくても、『持ち戻し免除』の意思があったものとして扱いますよ(推定しますよ)」という強力な規定です。
これにより、遺産分割協議で揉めるリスクを減らすことができます。
4 この制度を使うための3つの条件
この規定が適用されるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。特に「いつ贈与されたか」という日付が重要になります。
① 令和元年(2019年)7月1日「以後」に贈与・遺贈されたものであること
ここが最大の注意点です。
法律の附則4条により、この新しいルールは施行日(2019年7月1日)より前に行われた贈与や遺贈には適用されません。
たとえ相続発生(死亡日)が今日であっても、「贈与契約をした日」や「遺言を作成した日」が2019年6月30日以前であれば、この推定規定は使えず、原則通り「持ち戻し」の対象となる可能性があります(その場合は、個別に「黙示の持ち戻し免除」を主張していくことになります。事案によっては旧法適用下でも黙示免除を主張する余地はあり得ます。)。
② 婚姻期間が20年以上の夫婦であること
• 配偶者の長年の貢献に報いる趣旨だからです。
• 注意点:事実婚(内縁関係)の期間は含まれません。法律婚の期間が通算20年以上である必要があります。また、贈与の時点で20年を経過している必要があります。
③ 居住用不動産(建物または土地)の「遺贈」または「贈与」であること
• 生活の本拠である自宅が対象です。投資用マンションなどは対象外です。
• 注意点:生前贈与だけでなく、遺言による「遺贈」も対象です。
5 【ケース別】実務上の対応と注意点
パターンA:すでに贈与を受けている場合
すでに配偶者に自宅の名義変更が済んでいる場合、本条の適用により「持ち戻し免除」が推定される可能性が高いです。
他の相続人から「自宅分を遺産に戻して計算しろ」と主張された場合、この法律を根拠に反論できる可能性があります。
判断に迷う場合は、一度弁護士にご相談ください。
パターンB:これから贈与・遺言を検討している場合
これから対策を行うのであれば、「推定」に頼るのではなく、確実な方法をとるべきです。
1. 公正証書遺言を作成する
2. 遺言の中で「持ち戻しの免除」を明記する
これにより、将来の解釈の余地をなくし、確実に配偶者を守ることができます。
当事務所では、こうした「争族」を防ぐための生前対策にも力を入れています。
6 【注意】遺留分(遺留分侵害額請求)との関係
持ち戻し免除の推定は、遺産分割での“持ち戻し計算”を不要にする方向の制度です。
一方で、居住用不動産の贈与・遺贈が、相続人(例:子)の遺留分を侵害している場合には、別途、遺留分侵害額請求の問題が生じ得ます。
最高裁判所平成24年1月26日決定(判タ 1369号124頁)では、持戻し免除の意思表示をしていた場合であっても、遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される旨を判示しております。
7 相続問題を弁護士に依頼するメリット
相続、特に「特別受益」や「持ち戻し」が絡む事案は、計算や法解釈が非常に複雑です。
1. 適正な取得額の確保: 法的な知識がないまま進めると、本来得られたはずの利益(持ち戻し免除など)を見落とす可能性があります。弁護士が入ることで、最大限有利な解決を目指せます。
2. 精神的負担の軽減: 「もらいすぎだ」と主張する他の相続人との交渉は大きなストレスです。弁護士が窓口となることで、直接のやり取りを避けられます。
3. ワンストップでの解決: 当事務所の代表弁護士は税理士資格も有しており、税務面(相続税など)や登記(司法書士との連携)も含めたトータルサポートが可能です。
8 遺産分割・遺言作成・遺留分侵害額請求の弁護士費用
⑴ すでに生前に贈与を受けているケースで遺産分割が発生している場合の弁護士費用は以下のページをご参照ください。
https://souzoku-katsushika.com/cost/#i-3
⑵ これから贈与・遺言を検討されている場合の弁護士費用は以下のページをご参照ください。
https://souzoku-katsushika.com/cost/#i-13
遺留分の請求を受けた場合の対応費用(請求する場合の費用)も先ほどのURLのリンク先に記載しておりますのでご参照ください。
9 おわりに
「長年連れ添った妻(夫)に、住む場所だけは確実に残したい」。
その想いを実現するために、民法の改正が行われました。
しかし、法律は知っていなければ使えませんし、自動的に適用されるわけでもありません。
他の相続人から異論が出た場合、正しく反論する必要があります。
「自分たちの場合はどうなるの?」と少しでも疑問に思われたら、自己判断せず、まずは専門家にご相談ください。
当事務所では、初回30分の無料相談を行っております。お気軽にお問い合わせください。
お電話でのお問い合わせ
平日9時~18時で弁護士が電話対応
※初回ご来所相談30分無料
☎︎ 03-5875-6124

