特別寄与料の請求方法・要件・金額の計算方法などを解説
その他「長男の妻として、同居している義父の面倒をみてきました。夫が病気で両親より先に亡くなり、その後も義父と同居しながら面倒を見続けてきました。この度、義父が亡くなりました。私には相続分はありませんが、民法改正で、特別寄与料が請求できるようになったと聞きました。」
このようなご相談をいただく場合がございます。
このコラムでは、平成31年の民法改正で追加された特別寄与料と以前からある遺産分割における寄与分との違いにも言及をしつつ、特別寄与料の要件、具体例、金額の算定方法、具体的な請求方法、よくある誤認・誤解などについて解説します。
目次
1 特別寄与料の請求とは
お亡くなりになった方の財産の維持又は増加について特別の寄与をした、相続人ではないお亡くなりになった方の親族(=例えば、亡くなった方の長男の妻)は、相続人に対して、寄与の程度に応じた金銭の請求ができます。
これを特別寄与料の請求といいます。
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
2 特別寄与料の請求が認められるための要件
特別寄与料は、
- ① 被相続人に対して無償で労務の提供をしたことにより
- ② 被相続人の財産の維持又は増加について
- ③ 特別の寄与をした
- ④ 相続人以外の被相続人の親族(=親族とは①配偶者、②6親等内の血族、③3親等内の姻族をいいます。①配偶者は常に相続人となるため、②③に該当する相続人でない者が、ここでの特別寄与者として保護されます。)が
- ⑤ 相続開始及び相続人を知った時から6か月以内又は相続開始の時から1年以内に
相続人に対して請求をすることができます。
3 特別寄与料が認められる具体例
例えば、お亡くなりになった方A、その長男B、次男C、長男の妻Dがいる事案を想定します。
、長男B、長男妻Dは同居しておりましたが、長男BがAに先立って死亡し、その後は長男妻DがAと同居して介護を行っていたとします。
│
次男C 長男B=長男妻D
このような事案の場合、遺産分割の場面では、長男妻Dは、民法上、被相続人Aの相続人ではないため、長男妻Dの介護による貢献にかかわらず何ら遺産分割に関与することはできません。
しかし、特別の寄与料の請求の場面では、長男妻Dは、
- ① 被相続人Aに対して無償で療養介護という労務提供をし、
- ② 介護事業者に本来であれば支払うはずであった介護費用を支払わなくて済んだことで被相続人の財産の維持について
- ③ 特別に寄与をしたこととなり、
- ④ 長男の妻は被相続人との関係で親族に当たることから
- ⑤ 相続開始及び相続人を知った時から6か月以内又は相続開始の時から1年以内であれば、
相続人である次男Cに対して、特別の寄与料を請求することができることとなります。
4 特別寄与料の算定方法
その際の特別寄与料の算定は、寄与の時期、方法及び程度、財産の額その他一切の事情を考慮して決めます(民法1050条3項)。
先ほどの事例のような「療養看護型」の労務提供の場合は、
により特別の寄与料を算出することとなります。
なお、このような裁量割合を乗じるのは、相続人が看護や介護の専門家ではないといった事情を考慮しているためです。
5 特別寄与料請求の流れ・手続
大きくは、次の流れで進行します。
⑴ 交渉
特別寄与料を請求する場合は、まずは交渉を行うことが一般的です。
交渉の前提として、相続人の調査、遺産の調査等を行います。
調査完了後、特別寄与料を算出の上、相続人に対して、請求を行います。
その後、話合いを重ね、無事にまとまれば、公正証書等で合意を交わします。
⑵ 調停
交渉でまとまらない場合は、裁判所に場を移した話合いである調停(特別の寄与に関する処分調停)を申し立てることになります。
管轄裁判所は、請求をする相手方である相続人の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
調停でまとまった場合は、調停調書という書面を裁判所が作成することとなる。
⑶ 審判
調停でもまとまらない場合は、審判に移行することになります。
審判に移行した場合、最終的には裁判所が審判で適切な特別寄与料の額を決めることとなる。
6 よくある誤認・誤解
- 誤認・誤解
- 同手続には期間制限はない。
- 正しい考え方
- 特別寄与料の請求は、相続開始及び相続人を知った時から6か月以内又は相続開始の時から1年以内に行わなければなりません。
期間を過ぎた場合は、原則として請求をすることはできません。
- 誤認・誤解
- 生前、夫の妻が夫の父に、お金を渡しているようなケース(財産出資型寄与のケース)も遺産分割の寄与分同様に特別の寄与においても寄与行為の対象となる。
- 正しい考え方
- 寄与行為の態様として想定されているのは、先ほどの事例のような療養看護といった「労務の提供」型の寄与行為だけです。
被相続人への財産給付といった労務の提供以外の寄与行為は、特別の寄与でいう寄与行為とならないので注意が必要です。
療養看護以外の労務の提供としては、家事従事型の労務提供行為が想定されます。
ここでいう家事とは、いわゆる専業主婦のような者の家事行為のみに限られるものではなく、自営業の手伝いをする場合も含まれます。
- 誤認・誤解
- 療養看護を行いさえすれば、その内容や頻度は問わず特別の寄与と認められる。
- 正しい考え方
- 療養看護型の労務提供があったものと認められるためにはいくつか条件があります。
具体的には、
- 1.被相続人が療養や介護を必要とする状態であったことは当然ながら必須の要件となります(資料として要介護認定通知書、要介護の認定資料、診断書等が必要となる場合があります。)。
- 2.病院や施設で療養看護を受けている場合は原則としてその期間は特別の寄与は認められません(この場合、医療機関の領収証等が必要となります。)。
- 3.たまに介護をする程度では足りず、特別の寄与者の貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献が必要となります。
- 4.その貢献は、無償もしくはそれに近い状態でなされることが必要となります。
- 5.さらに、継続的な貢献であることが必要であり、基本的には1年以上の療養看護は必要とされる場合が多いです。
- 6.そして、このような条件を満たす療養看護を実施することはかなりの負担を要することから、専従での看護であることも結果的に必要となります。
- 7.上記の療養看護を実施した上で、被相続人が支払うべき職業看護人報酬の出費を免れることができた
といえて初めて特別の寄与が認められることとなります。
- 誤認・誤解
- 特別寄与料と遺産分割における寄与分は同じ話である。
- 正しい考え方
- 特別寄与料の請求は遺産分割とは別の枠組みで、相続人に対して特別寄与料の支払いを請求する手続です。
言い換えると、特別寄与料は、遺産分割手続の中で考慮されるものではありません。
同じ「寄与」というワードでも、遺産分割における「寄与分」が遺産分割手続の中で定められるものであって、かつ、遺産分割における具体的相続分の確定の際の考慮事由(計算の基礎)となるものとは、特別寄与料の請求は全く異なります。
7 おわりに
特別寄与料の請求は比較的新しい制度でこのような方法が取れること自体知らない方も多いかもしれません。
もっとも、高齢化が急速に進む中で義父や義母の面倒を見る配偶者もこれから増え続けていくことになろうかと思います。
もしそのような問題に直面しましたら、まずはお気軽にお問合せください。
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