「遺産分割における株式の評価」
遺産分割
「遺産の中に上場企業の株式がある。」
「遺産の中に親族経営だった会社の株式がある。」
このコラムでは、遺産分割における株式の評価についてご説明します。
目次
1 遺産分割の流れのおさらい~株式の評価の必要性
東京家裁における遺産分割の手続(遺産分割協議、遺産分割調停・審判)では、東京家庭裁判所家事部が公表している「遺産分割調停の進め方」に倣って、①相続人の範囲、②遺産の範囲(原則として被相続人が亡くなった時点で所有していて、現在も存在するもの)、③遺産の評価、④各相続人の取得額(特別受益・寄与分の有無及びその額)、⑤遺産の分割方法の順番に沿って論点整理を行い、遺産分割協議や遺産分割調停の成立を目指していくことになります。
このうち、③遺産の評価については、例えば預貯金の場合には残高からその金額(評価額)が明らかであるためその評価が争いになることはありませんが、株式、特に株式市場での取引がない非上場株式(親族経営の会社の株式など)については、一定の評価方法に従って評価を行って初めて、遺産分割における評価額が確定することになります。
2 上場株式の評価
株式のうち上場株式については、証券取引所による株式市場において取引価格が形成されていることから、基本的に公表されている基準日(遺産分割協議・遺産分割調停成立の直近日)の終値を参照することにより、遺産分割における評価額を確定することができるため、争いになることはあまりありません。
3 非上場株式の評価
⑴非上場株式(親族経営の会社の株式など)の株価算定方法
他方、上場株式と異なり、非上場株式(親族経営の会社の株式など)については、株式市場における取引価格がありませんので、一定の評価方法に従って評価を行う必要があります。
この場合、次のように、①会社法上の株式買取請求における株価算定方法、あるいは、②税務上の評価基準(国税庁の相続税財産評価基本通達、昭和39年4月25日直資56直審(資)17)による株価算定方法を参考にすることがあります。
⑵ ①会社法上の株式買取請求における株価算定方法
会社法上の株式買取請求における株価算定方法と一口に言っても、その算定方法には次のように様々なものがあり、これらに拠る場合は公認会計士の株式評価(鑑定)を要することになりますので、②の税務上の評価基準(国税庁の相続税財産評価基本通達)による株価算定方法よりも一般的に信頼性は高いといえますが相応の鑑定費用を要することになります。
算定方法 | 大まかな内容 |
---|---|
ネットアセットアプローチ(純資産方式) | 評価対象会社の財政状態(純資産額)を算定した上でそれを発行済み株式総数で割ることにより株価を算定する方法。 純資産額につき、貸借対照表上の帳簿価格に拠るのか、時価に引き直すのかなどによりさらに手法が分かれる。 |
インカムアプローチ(収益方式) | 評価対象会社の株主が将来受け取る配当、あるいは、会社が将来上げる売上を予測し、その予測額に基づいて株価を算定する方法。 |
マーケットアプローチ(比準方式) | 過去の取引事例や同業種・同種規模の上場会社を選定しその株式市場価格を参考に株価を算定する方法。 |
⑶ ②税務上の評価基準(国税庁の相続税財産評価基本通達)による株価算定方法
税務上の評価基準(国税庁の相続税財産評価基本通達)による株価算定方法は、税理士が作成した相続税申告書に評価額が記載されているため、①の会社法上の株式買取請求における株価算定方法によるよりも比較的早期かつ簡易に評価が判明します。
ただし、税務上の評価基準(国税庁の相続税財産評価基本通達)は、あくまでも相続税申告という大量に発生する事柄に対処するために、評価対象会社を、従業員数・純資産帳簿価格・取引高によって、大会社・中会社・小会社に分類した上で、その分類ごとに各種方式を適用し、かつ、税の公平性確保の観点から恣意的な評価がなされないような修正を施すものであり、①の会社法上の株式買取請求における株価算定方法と比較して必ずしも合理的な評価方法とはいえないともいわれています(田中亘編『数字で分かる会社法第2版』(有斐閣、2022年)23頁)。
4 当事務所の遺産分割・遺言書作成の弁護士費用
(1) 遺産分割
旧日本弁護士連合会の基準によると、例えば、不動産が遺産に含まれる場合、対象となる相続分の時価相当額は、相当高額になり、ご依頼し辛い場合がございます。
そのため、当事務所では、旧報酬基準を若干変更し、よりご依頼をしやすい費用形態としております。
当事務所の遺産分割問題の報酬基準の詳細はこちらをご覧ください。
(2) 遺言書作成
当事務所では、確実に将来ご希望の財産をお届けする観点から、基本的には自筆証書遺言ではなく、全件公正証書遺言での作成を前提にご依頼をお受けしております。
費用の詳細はこちらをご覧ください。
5 おわりに
以上のように、遺産分割における株式、特に非上場株式の評価については、どのような算定方法に拠るべきか、鑑定費用との兼ね合いで公認会計士などの鑑定評価を行うべきかなど難しい問題があります。
また、このような非上場株式評価を踏まえて、どの相続人が非上場株式を取得するか、言い換えればどの相続人が会社経営を承継するかも深刻な争いになることがあります。
場合によっては公正証書遺言などにより生前に非上場株式の承継者を指定することも検討すべきです。
まずはお気軽に弁護士にご相談いただければと思います。
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