遺産分割協議・遺産分割調停では、複雑な遺産分割の問題を順序立てて解決していくために、①相続人の範囲、②遺産の範囲、③遺産の評価、④各相続人の取得額(特別受益・寄与分などの考慮)、⑤遺産の分割方法の順に協議・調停を進めていくことになります(これを「段階的進行モデル」ということがあります。)。
そこで、今回の記事では、③の遺産の評価について解説いたします。
1 遺産の評価の基準時
年々古びていく建物の例からも分かるとおり、遺産の価値は「いつの時点の価値を問題とするか。」によって変動があることになります。
そのため、いつの時点を基準に各種の遺産を評価するべきなのかという問題があります。
この問題については、「相続開始の時において有した財産の価額」(民法第903条第1項)と規定されている特別受益(生計の資本として受けた贈与など)のように相続開始時(=被相続人の死亡時)を基準時とすることが明確に規定されているものもあります。
他方で、現実に遺産を分配する段階では、相続開始時ではなく、遺産分割時(=遺産分割協議が成立する日・遺産分割調停が成立する日など)を基準時とするのが実務上の取り扱いです。
2 各種の遺産の評価の方法
⑴ 不動産の評価の方法
① 原則―時価(実勢価格)
不動産には、固定資産税評価額をはじめとする各種の公的評価がありますが、遺産分割における評価の方法としては、不動産の「時価」(実際に取引される実勢価格)を査定により求めるのが原則となります。
具体的には、不動産業者に机上査定を依頼したり、場合によっては不動産鑑定士に依頼をして時価額を算出することになります。
② 土地―公示価格、固定資産税評価額、相続税評価額
土地に関する公的評価としては、公示価格(地価公示価格)、固定資産税評価額、相続税評価額(路線価)などがあり、①のとおり遺産分割においては時価評価が原則ですが、これらの公的評価を参考として土地の評価を行う場合もあります。
これらの公的評価については、一般に、時価に最も近いとされる公示価格を10割とすると、公示価格(10割)>相続税評価額(8割)>固定資産税評価額(7割)を目安に設定されているといわれています。
③ 建物―固定資産税評価額
建物に関する公的評価としては、固定資産税評価額があり、①のとおり遺産分割においては時価評価が原則ですが、固定資産税評価額を参考として建物の評価を行う場合もあります。
固定資産税評価証明書は、相続人であれば、不動産が所在する自治体窓口で取得します(東京23区内の場合は都税事務所の管轄となります。)。
⑵ 不動産の利用権(土地賃借権、使用借権等)の評価の方法
土地賃借権は、簡易な評価の方法として、路線価図に記載された借地権割合を更地価格に掛け合わせて評価することが多いです。
また、使用借権(無償の土地利用権)は、更地価格に使用借権割合(堅固建物につき20%、非堅固建物につき10%とされるのが競売実務とされています。)を掛け合わせて評価することが多いです。
⑶ 現金・預貯金の評価の方法
現金・預貯金は、現在の保有金額・残高証明書などにより金額が明らかになりますので、評価の方法が問題となることは通常ありません。
⑷ 上場株式・投資信託・非上場株式の評価の方法
上場株式・投資信託は、基準時(遺産分割時)の取引価格により評価することになります。
非上場株式は、上場株式と異なり取引価格が公表されている訳ではありませんので、国税庁の財産評価通達による算定方法や会社法に基づく株式買取請求における算定方法などを参考に評価をすることになりますが、評価の手法については様々なものがありますので、実務上、評価額について折り合いがつかず紛糾することもままあります。
3 遺産の評価を弁護士に依頼するメリット
遺産の評価は、対象の遺産ごとに様々であり、不動産の価格ひとつをとっても、取得を希望する相続人と売却を希望する相続人とで、時価額につき、対立が生じる場合が多くございます。
特に非公開株式が存在する場合などは、紛糾する傾向が強いです。
適切に評価を実施し、その評価額を相手方に伝えて交渉できる点は、弁護士に依頼する大きなメリットといえます。
4 遺産分割を弁護士に依頼する流れ
まずは、お電話にてお気軽にお問合せください。
当事務所では実際に弁護士が電話に出て、概要をお伺いしております。
お電話で概要をお伺いした後に、日程の調整を電話にて承ります。
ご来所いただき、正式なご相談に至った際は、お電話で伺った概要を前提に、
手続の流れ、所要時間、弁護方針、弁護士費用の見積もりを絵を書きながらご説明させていただきます。
相談料は初回30分については無料となります(30分以降は30分ごとに5000円を頂戴します。)。
相談の結果、ご依頼をお決めになった場合は、委任契約書を取り交わします。
委任契約書に基づく着手金のお支払いを確認いたしましたら、活動を開始いたします。
なお、当事務所では、双方納得をして手続を進めるために、ご依頼後に弁護方針や手続の流れを改めてメールでも個別にお送りしております。
5 遺産分割事件ご依頼後の流れ
ご依頼後は、通常の遺産分割事件の場合は、交渉段階では、先方に受任通知(弁護士が就任したことをお知らせする書面)をお送りすることが多いです。
そのうえで、相続人、遺産の範囲、遺産の評価、特別受益や寄与分、遺産の分け方等をご依頼者とご相談のうえ、資料を精査しながら確定していきます。
そのうえで、当方の見解を先方にお示しします(示し方はケースバイケースですが、遺産分割協議書案を当方にて作成したうえ、そちらをベースに議論を深める場合も多いです。)。
話し合いでまとまれば遺産分割協議書を取り交わして終了となりますが、まとまらない場合は、遺産分割調停を申し立てることとなります。
調停でまとまれば調停調書という書面を裁判所で作成し終了となり、調停でもまとまらない場合は、裁判所にて審判に移行することとなります。
ご依頼後の遺産分割の弁護方針はまさにオーダーメイドですので、個別の事案をお伺いしたうえで、一人一人事案に即した方針を立てさせていただいております。
6 遺産分割の弁護士費用
弁護士費用は、法律相談料、着手金、報酬金、実費等に分けられます。
上記各項目についての詳細は、こちらをご覧ください。
遺産分割についての詳細は、こちらをご覧ください。
7 おわりに
以上解説いたしましたとおり、遺産分割協議・遺産分割調停においては、「段階的進行モデル」に沿って、①相続人の範囲、②遺産の範囲、④各相続人の取得額(特別受益・寄与分などの考慮)、⑤遺産の分割方法のほか、③遺産の評価についても確定・合意する必要があります。
そして、遺産の評価の方法には、各種の遺産に応じて様々なものがあり、適正な遺産分割を行うためには、どのような評価の方法により主張立証を組み立てるべきかにつき考えなければならないポイントが数多くあります。
このような問題に直面された場合には、法的な専門知識が必要となりますので、まずはお気軽に弁護士にご相談いただければと思います。
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