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生前に利益を受けていた相続人の調整(特別受益)

「兄は、父の生前、家の頭金を出してもらっていたのに私は何ももらっていない、遺産分割で何も考慮されないのですか。」

 
といったご相談をお受けするケースがよくあります。
 
相続をされる方の中には、生前、被相続人から家の頭金を出してもらったり、財産を譲り受けている方がおります。
このような生前に利益を受けていたといった事情は、「特別受益」として議論されることになります。
 
今回は「特別受益」について、その内容をよくあるご相談事例を紹介しながら弁護士が解説します。
 

特別受益とは

相続人の中で、被相続人から、遺言によって財産を譲り受けたり(このことを「遺贈」といいます)、被相続人が生きていた際に遺産の前渡しと考えられるような多額の金銭を受けた(このことを「贈与」といいます)といった場合、相続人間の公平を図る必要があります。
そのため、遺贈又は贈与の額を相続財産に加算して、遺産の分割をすることになります。
このような財産を譲り受けたり、金銭を受けたりすることを「特別受益」といいます。
特別受益として遺産から譲り渡されたものは、相続財産の中に計算上加えることがあります。
これを、「特別受益の持戻し」といいます。
 

特別受益のよるあるご相談と一般的な考え方12選

それでは、特別受益に該当するか否かについて、よくあるご相談例を紹介して解説します。
あくまで一般的な事案を想定しており、個別の事情によっては異なる結論になる場合があることはご留意ください。
 

  • 例1 無償で被相続人の土地を利用していた場合
    被相続人である父が生前所有する土地の上に、長男が建物を建てて何らの賃料を払わらずに建物に住んでいた場合を考えてみましょう。
    被相続人に対して賃料を支払わずに建物を所有していた場合には、土地を使用する権利である「使用借権」に相当する額の特別受益があるとされることがあります。
    これに対して、相続人である長男が被相続人である父の土地に建物を建てて、その建てた建物で被相続人と一緒に住んでいた場合には、長男が父の面倒をみていることから特別受益に該当しないこともあります。
    個別の事案に即してこのあたりは判断していくことになります。

 

  • 例2 無償で被相続人の建物に一緒に住んでいた場合
    被相続人である父が所有する建物に長男が賃料等を支払わずに住んでいた場合を考えてみましょう。
    このように、被相続人と長男が一緒に住んでいた場合、長男が建物に住むことにより生じるはずである賃料については、特別受益に当たらないと考えられています。
    また、長男が父の所有する建物に父と同居せずに住んでいた場合、建物を借りて住むことにより発生するはずである賃料相当額が特別受益にあたらないことになります。
    建物の使用を認めることは、恩恵的な性格が強いことや使用を認めたとしても経済的に価値が低いと考えられているため、賃料相当額が特別受益に該当しないとされています。

 

  • 例3 無償で被相続人から不動産や不動産購入資金の贈与を受けた場合
    被相続人である父より居住用の不動産の贈与を受けていた場合や不動産の取得のために金銭の贈与を受けていた場合を考えてみましょう。
    贈与がなされた場合には、生計の基礎として役立つものであるか否かによって、被相続人からの贈与が特別受益に該当するかが判断されます。
    不動産の贈与を受けることや不動産の取得のために金銭の贈与を受けることは、金額が高額になることも多く、生活をする上で欠かすことのできないものであることから、特別受益に該当することになります。

 

  • 例4 被相続人から生命保険金を受け取っていた場合
    被相続人である父が死亡したため、長男が生命保険金を受け取っていた場合を考えてみましょう。
    受け取った生命保険金については、特別受益に該当しないとされています。
    保険金受取人とされた相続人が取得する保険金は、遺贈に当たらないと考えられています。
    これに対して、遺産とされる財産を考えて、保険金を受け取ることで相続人間の不公平が大きくなる特別な事情が存在する場合には、特別受益に準じたものとされることになります。
    特別な事情については、保険金の額や被相続人との関係などの事情を総合的に考慮して判断されます。

 

  • 例5 被相続人から新築祝いや入学祝をもらった場合
    相続人の一人が家を建てた際、被相続人である父から、新築祝いとして現金をもらった場合や被相続人である母より、相続人の一人が学校に入学した際に入学祝いをもらった場合を考えてみましょう。
    相続人の一人が被相続人からお金をもらっていた場合、そのお金が親としての援助の範囲内であれば、特別受益には当たりません。

 

  • 例6 被相続人から学費の支援を受けた場合
    大学の授業料を被相続人である父が出してくれていた場合(学資)を考えてみましょう。
    この場合には、遺産を分割する家庭の状況によって異なることになります。
    相続人を大学へ通わせることが親の扶養の範囲内である場合や、他の相続人である兄弟全員が大学へ通うなどして同じ程度の教育を受けている場合には、特別受益に当たらないとされています。
    家庭の状況を検討する際には、被相続人の生前の経済的状況などを考慮することになります。
    類似の問題として、留学した際に留学の費用を出してもらった場合にも、被相続人の生前の状況を考慮することになります。

 

  • 例7 被相続人から小遣いや生活費を貰った場合
    被相続人である父よりお小遣いや生活費をもらっていた場合を考えてみましょう。
    父親の子に対する扶養の範囲内でのお小遣いや生活費であれば、特別受益には当たらないことになります。

 

  • 例8 被相続人に自身の債務を負担してもらった場合
    長男は、被相続人である母に自らの債務を支払ってもらっていた場合を考えてみましょう。
    被相続人が相続人の代わりに債務を支払っていた場合には、被相続人が、相続人に対して求償することができるため、贈与に当たらず、相続人の債務を代わりに支払ったことは特別受益にはあたらないことになります。
    これに対して、被相続人が求償権を放棄したような場合には、被相続人が支払った金額の大きさによって、特別受益に該当することがあります。

 

  • 例9 被相続人死亡に伴い被相続人の死亡退職金を受け取った場合
    被相続人である父が亡くなったことにより相続人が死亡退職金を受け取った場合を考えてみましょう。
    死亡退職金は、死亡退職金を受け取る相続人の生活を保障することが明らかである場合には、特別受益に該当しないことになります。
    これに対して、相続人の生活を保障するものでなく、被相続人に対する給付を意味するものである場合には、特別受益に当たることもあります。

 

  • 例10 被相続人死亡に伴い遺族給付を受け取った場合
    被相続人である父が死亡したことにより遺族給付を相続人が受け取った場合を考えてみましょう。
    相続人の生活を保障するための金銭に関しては、特別受益に該当しないことになります。

 

  • 例11 被相続人から結婚持参金を受け取った場合
    長女は、被相続人である父から結婚の際に持参金をもらっていたという事案で考えてみましょう。
    長女が結婚の際に持参金や支度金を親に用意してもらったという場合は、もらったお金の金額の大きさを考慮することになります。
    用意してもらった金額が大きいといえれば、特別受益に該当することになります。
    他に、結婚の際に結納金や挙式費用を出してもらっていたという場合も考えられますが、特別受益に当たらないと考えられています。

 

  • 例12 被相続人からお金を借りていた場合
    被相続人である父から、相続人のひとりがお金を借りていたという場合を考えてみましょう(貸付金)。
    特別受益に当たるというためには、遺産から譲渡されたといえる必要があります。
    「貸付」金については、「贈与」には当たらないと考えられています。
    そのため、貸付金は、遺産から譲渡されたものとはいえず、特別受益に該当しないことになります。

 

特別受益の持ち戻し免除の意思表示とは?

特別受益には、持戻し免除という概念があります。
この「持戻し免除の意思表示」とは、特別受益として遺産から譲り渡されたものについて、被相続人が相続財産の中に計算上加える必要がないことの意思を示していると認められる場合に、遺産から譲り渡された額を相続財産に加算しないことの意思表示をいいます。
「持戻し免除の意思表示」は、遺言書等で明示的に意思表示がされている必要はなく、免除の意思表示をしていることが判断できればいかなる方式でも(黙示的でも)よいとされています。
明示的持ち戻し免除の具体例としては、遺言書で、被相続人が生前贈与した金銭については持ち戻す必要がない旨を記載している場合などがございます。
黙示的持ち戻し免除の具体例としては、相続人全員に対して贈与をしている場合や高齢の妻に現金を贈与した場合等があり得ます。
最近では、民法の改正があり、一定の要件をみたしたうえで、配偶者に対して居住用不動産の贈与等がされた場合には、明示していなくとも、持戻し免除の意思表示があったものと推定する規定ができました(民法903条第4項)。
 

特別受益の持ち戻しの計算方法と具体例

特別受益として遺産から譲り渡されたものについては、被相続人が相続財産の中に計算上加えて相続分を計算することになります。
特別受益の持ち戻しの計算をする場合には、以下の手順を踏むことになります。
 

  • 【ステップ1】 「みなし相続財産」の確定
    「みなし相続財産」は、相続が開始された時に存在していた遺産の額に、相続人が特別受益として贈与を受けた額を加えることにより確定することになります。
    この際に、注意が必要な点が2点あります。
    まず、遺産に対して債務を控除しないということがあげられます。
    そして、遺言によって財産を取得する場合には、贈与された場合と異なり、遺産の額に加えないことがあげられます。

 

  • 【ステップ2】 持戻しの計算
    「みなし相続財産」が確定した場合、その財産を基礎にして、各相続人の相続分を乗じて、各相続人が取得することのできる相続財産の額を算出することになります。
    そして、算出された各相続人が取得することのできる相続財産の額から各相続人が受けた特別受益の額を個別に控除することになります。
    特別受益の額を控除して算出された額が個々の相続分となります。

では、以下で具体的な事例を踏まえて解説いたします。
 

例:被相続人である父は、2000万円の財産を残して亡くなりました。
父には、配偶者である妻と子どもが2人(長男、長女)いました。
父は、亡くなる前に、長男に対して500万円を贈与し、長女に対して300万円を贈与していました。

それでは、上記のステップに沿って検討していきます。
 

【ステップ1】「みなし相続財産」の確定

相続が開始された際に存在していた遺産の額である2000万円に対して、長男が贈与を受けていた500万円と長女が贈与を受けていた300万円を加えます。
 

(計算式)2000万円+500万円+300万円=2800万円

 
「みなし相続財産」は、2800万円であることが確定しました。
 

【ステップ2】持戻しの計算

「みなし相続財産」が確定した場合には、各相続人の相続分を乗じて各相続人が取得することのできる額を算出します。
相続分は、配偶者である妻は2分の1、長男は4分の1、長女は4分の1となります。
妻の相続分は、2800万円に2分の1を乗じて計算することになります。
 

(計算式)2800万円×2分の1=1400万円

 
したがって、妻の相続分は、1400万円となります。
長男の相続分は、2800万円に4分の1を乗じて計算することになります。
 

(計算式)
2800万円×4分の1=700万円

 
長女の相続分は、2800万円に4分の1を乗じて計算することになります。
 

(計算式)2800万円×4分の1=700万円

 
各相続人の相続分が算出できたため、各相続人の中で特別受益として受け取っている額を差し引くことになります。
長男は、500万円の贈与を受けていることから、700万円から500万円を差し引くことになります。
 

(計算式)700万円-500万円=200万円

 
したがって、長男の相続分は、200万円となります。
また、長女は、300万円の贈与を受けていることから、700万円から300万円を差し引くことになります。
 

(計算式)700万円-300万円=400万円

 
したがって、長女の相続分は、400万円となります。
 
以上より、ステップの順番に従い検討した結果、妻の相続分が1400万円、長男の相続分が200万円、長女の相続分が400万円となります。
特別受益の持ち戻しの計算方法について解説いたしました。
 

特別受益の計算と弁護士に依頼するメリット

特別受益の計算は、実際の事案では特別受益に含まれるかどうか、含まれるとして持ち戻し免除の意思があるかどうか等、考慮すべき要素も数多く含まれますので、間違ってしまう方も多いです。
また、こちらは裁判例等に基づいて正確に理解し計算をしたとしても、相手方が理解してもらえない場合や納得をしてもらえない場合も多くございます。
正確に特別受益を把握・計算し、正しい遺産分割を実現するためにも、迷った際は弁護士にご相談いただければと思います。
 

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